糖尿病・代謝内科

不眠症と糖尿病の関係性について

2023.05.24

この記事では、「不眠症と糖尿病の関係性」について解説していきます。後半部分では、「不眠症と糖尿病の併発リスク」について解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。

【目次】
不眠症と糖尿病の症状
睡眠障害が糖尿病に与える影響について
不眠が糖尿病に与える影響について
糖尿病症状が不眠症に与える影響とは
糖尿病患者さんに起こり得る眠気のメカニズム
体内時計の乱れがもたらす影響
不眠症と糖尿病の併発リスク
不眠症、糖尿病についていつでもご相談ください

 

不眠症と糖尿病の症状

不眠症と糖尿病の症状

不眠症と糖尿病の症状の症状は、次の通りです。

<不眠症の症状>

不眠症とは、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟睡障害によって、その人にとって必要な睡眠時間が十分に取れないことや“睡眠の質”が低下することで、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する病気です。不眠は、眠気、倦怠感、集中力低下、抑うつや不安などの精神症状を引き起こし、その結果として生産性の低下、交通事故の増加など、様々な人的及び社会経済的損失をもたらすと考えられております。したがって、「睡眠が浅い」「寝付けない」など、睡眠に関して気になる症状がある方は、早い段階で医療機関に相談することをお勧めします。なお、日本においては約5人に1人が不眠の症状で悩んでいると言われております。詳しくは「不眠症 - e-ヘルスネット - 厚生労働省」をご覧ください。

<糖尿病の症状>

糖尿病はインスリンが十分に働かないために、血液中を流れるブドウ糖という糖が増えてしまう病気です。血糖の濃度が何年間も高いままで放置されると血管が傷つきます。そして将来的に心臓病や、失明、腎不全といった、より重い病気につながります。そのため糖尿病の症状が見られた際には放置せず、速やかに糖尿病専門医による診察を受けることが大切です。なお糖尿病は、症状の自覚が難しい病気です。血糖値が少し高い段階では、自覚する症状はほぼありません。しかし高血糖のままある程度の時間が経過すると、次のような症状が現れてきます。

糖尿病の初期症状

・立ちくらみ
・全身の倦怠感、疲労感
・喉が渇いて沢山の水がほしくなる
・手足のしびれ、冷え、むくみ
・皮膚のかゆみ、乾燥
・目がかすむ
・視力の低下
・やけどの痛みを感じにくい
・食べているのに痩せる
・残尿感がある
・尿の臭いが気になる

 

睡眠障害が糖尿病に与える影響について

睡眠障害が糖尿病に与える影響について

睡眠障害は、糖尿病と密接な関係があることが研究で示されています。「不眠症」や「睡眠時無呼吸症候群」などの睡眠障害は、「血糖コントロールの悪化」や「インスリン抵抗性の増加」を引き起こす可能性があります。また、睡眠障害はストレスホルモンの分泌を増加させ、炎症反応を促進することもあります。炎症反応の亢進は、インスリンの効果を妨げ、血糖値の上昇に寄与する可能性があるため、注意が必要です。なお、睡眠障害は様々な要因が組み合わさることで糖尿病の発症や進行を加速させる可能性があります。したがって、睡眠の質と量を適切に管理することは、糖尿病管理の重要な要素と言えます。

 

不眠が糖尿病に与える影響について

不眠は糖尿病に多様な影響を及ぼします。糖尿病のない人々においても、睡眠不足になると交感神経が刺激され、コルチゾールの分泌が増えてインスリン抵抗性が高まると報告されています。また、不眠により、食欲を抑制するホルモンであるレプチンが減少し、食欲を刺激するホルモンであるグレリンが増加するという研究結果もあります。これにより生じる食欲増進は血糖コントロールに当然不利に働きますので、これにより生じる食欲増進は血糖コントロールに当然不利に働きますので、適切な睡眠を確保することは糖尿病予防や管理において重要な要素と言えます。

 

糖尿病症状が不眠症に与える影響とは

糖尿病症状が不眠症に与える影響とは

糖尿病は不眠症に様々な影響を与える可能性があります。まず、高血糖状態が持続すると、夜間の頻尿や喉の渇きが生じ、眠りを妨げることがあります。また、糖尿病に伴う神経障害(神経症状)は、足のしびれや痛みを引き起こし、就寝時の快適さや眠りの質に悪影響を及ぼすことがあります。さらに、糖尿病患者さんは血糖コントロールのためにインスリンや薬物を使用することがありますが、これらの治療は低血糖(低血糖症)を引き起こす可能性があります。低血糖症は夜間に起こることがあり、悪夢や夜間覚醒を引き起こすことがありますので、注意が必要です。糖尿病が不眠症に与える影響は、生活の質を低下させるだけでなく、血糖コントロールの悪化や合併症のリスクを増加させる可能性があります。そのため、糖尿病患者さんは睡眠の問題に真剣に取り組み、適切な治療やライフスタイルの改善を検討することが重要です。

 

糖尿病患者さんに起こり得る眠気のメカニズム

糖尿病患者さんは、血糖値を下げる薬や「インスリン注射薬」を使って血糖値をコントロールするわけですが、インスリン注射薬や飲み薬が効きすぎてしまって、必要以上に血糖値が下がってしまうことがあります。低血糖状態になると脳に供給されるブドウ糖が不足してしまい、眠気が起こります。これが、糖尿病患者さんに起こり得る眠気のメカニズムになります。なお、日中の強い眠気は、糖尿病だけでなく、そのほかの病気や「生活習慣」によっても引き起こされます。例えば、睡眠時に無呼吸になり睡眠の質が低下する「睡眠時無呼吸症候群」や突然強い眠気に襲われてしまう「ナルコレプシー」といった病気です。また、寝る直前までパソコンやスマートフォンをいじっていたり、そもそも睡眠時間が少ないといった生活習慣なども眠気の原因になります。ですので、「糖尿病だから眠気が強いのだろう…」と考えるのではなく、眠気に強い悩みがあれば医師にしっかりと相談してください。

 

体内時計の乱れがもたらす影響

体内時計の乱れがもたらす影響

人間の体には、ほぼ24時間周期の体内時計があり、体温や血圧、ホルモン分泌などを調整しています。しかし、睡眠障害が起きると体内時計が乱れ、様々な機能に影響が及びます。まず、睡眠障害によって体と脳が十分に休まらず、糖分を細胞に取り込むためのインスリンへの反応が低下します。また、ホルモンバランスも変化し、交感神経に働きかけるコルチゾールやノルアドレナリンなどのホルモンが増加します。これにより、高血圧や高血糖といった症状が引き起こされます。一方で、食欲を制御するレプチンというホルモンは睡眠不足によって分泌が低下し、空腹感が増すため、食事のコントロールが難しくなります。つまり、糖尿病によって睡眠障害が起きると、血圧や血糖値が上昇し、糖尿病の症状が悪化するという悪循環に陥ってしまうのです。

 

不眠症と糖尿病の併発リスク

不眠症と糖尿病の併発リスク

不眠症と糖尿病は密接な関係があり、互いに影響し合うことが知られています。そのため、糖尿病専門外来を受診している患者さんのうち、約40%が不眠に悩んでいると報告されています。糖尿病では、合併症による神経障害や高血糖による多飲・多尿などの身体的要素が不眠を引き起こすことがあります。一方、睡眠時間が不足している場合には、耐糖能異常が多いことも報告されております。このようなことから血糖コントロール不良の糖尿病では、睡眠障害と高血糖が負のサイクルを形成する可能性が考えられています。

 

不眠症、糖尿病についていつでもご相談ください

糖尿病は自覚症状のないままに進行し、将来的に心臓病や失明、腎不全など、より重篤な合併症を引き起こす可能性があります。そのため、決して放置してはなりません。糖尿病の可能性が指摘された方や、日常生活の乱れにより「糖尿病の症状かもしれない…」と感じている方は、できるだけ早く医療機関を受診してください。また、不眠症にも注意が必要です。不眠症と糖尿病は密接に関連しており、互いに影響し合うことが知られています。睡眠障害がある場合、血糖コントロールが難しくなり、糖尿病の管理に悪影響を及ぼす可能性がありますので、不眠症に悩んでいる方も積極的に医療機関を受診してください。なお、当院では「糖尿病」や「不眠症」の診療を行っております。糖尿病の症状について悩んでいる方、あるいは不眠症の症状にお心当たりのある方などいらっしゃいましたら、まずお気軽にご相談ください。

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2023.01.21

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2023.01.21

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糖尿病と高血圧の関係

糖尿病・代謝内科に関する記事です。
糖尿病患者さんにおける「高血圧」の頻度は非糖尿病者に比べて約2倍高く、高血圧患者さんにおいても糖尿病の合併頻度は2~3倍高いと報告されています。 この記事では、糖尿病患者さんに向けて「糖尿病と高血圧の関係」を解説していきます。後半部分では「糖尿病と高血圧の予防」について解説しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。 .cv_box { text-align: center; } .cv_box a{ text-decoration: none !important; color: #fff !important; width: 100%; max-width: 400px; padding: 10px 30px; border-radius: 35px; border: 2px solid #fff; background-color: #ffb800; box-shadow: 0 0 10pxrgb(0 0 0 / 10%); position: relative; text-align: center; font-size: 18px; letter-spacing: 0.05em; line-height: 1.3; margin: 0 auto 40px; text-decoration: none; } .cv_box a:after { content: ""; position: absolute; top: 52%; -webkit-transform: translateY(-50%); transform: translateY(-50%); right: 10px; background-image: url("https://itaya-naika.co.jp/static/user/images/common/icon_link_w.svg"); width: 15px; height: 15px; background-size: contain; display: inline-block; } 【目次】 糖尿病の方がなぜ高血圧になりやすいのか 【糖尿病と高血圧の関係1】高血糖で循環血液量が増えるからです 【糖尿病と高血圧の関係2】肥満 【糖尿病と高血圧の関係3】インスリン抵抗性があるからです 糖尿病の血圧値について 糖尿病と高血圧予防 【糖尿病と高血圧予防】食生活の改善 糖尿病と高血圧予防|食事のポイント 【糖尿病と高血圧予防】運動 糖尿病と高血圧予防|運動の頻度について   糖尿病の方がなぜ高血圧になりやすいのか 糖尿病患者さんは「高血圧になりやすい」といわれています。なぜ糖尿病の方は高血圧になりやすいのでしょうか。糖尿病患者さんが高血圧になりやすいのには、以下の理由があげられます。 【糖尿病と高血圧の関係1】高血糖で循環血液量が増えるからです 血糖値が高い状態では、血液の浸透圧が高くなっています。そのため、水分が細胞内から細胞外に出てきたり、腎臓からの水分の吸収が増えたりして、体液・血液量が増加し、血圧が上昇します。 【糖尿病と高血圧の関係2】肥満 2型糖尿病患者さんには肥満が多いのが特徴です。肥満になると交感神経が緊張し、血圧を上げるホルモンが多く分泌されるため、高血圧になります。このようなことから、糖尿病患者さんは高血圧になりやすいと考えられています。 【糖尿病と高血圧の関係3】インスリン抵抗性があるからです インスリン抵抗性とは、インスリンの作用を受ける細胞の感受性が低下している状態です。インスリン抵抗性は、インスリンが効きにくくなったのを補うためにインスリンが多量に分泌され「高インスリン血症」を招きます(インスリン抵抗性自体が糖尿病の原因にもなります)。高インスリン血症では、交感神経の緊張、腎臓でナトリウムが排泄されにくい、血管壁を構成している細胞の成長が促進されるといった現象が起きて、血管が広がりにくくなり、血液量も増え、血圧が高くなるのです。 <高血圧とは?> 高血圧とは、運動したときなどの一時的な血圧上昇とは違い、安静時でも慢性的に血圧が高い状態が続いていることを指します。具体的には「収縮期血圧が140mmHg以上」「拡張期血圧が90mmHg以上」の場合をいい、どちらか一方でもこの値を超えていると高血圧と診断されます。高血圧は自覚症状がほとんどありません。しかし放置してしまうと心疾患や脳卒中など生命を脅かす病気につながるため「サイレント・キラー」といわれています。高血圧が引き起こす合併症について知りたい方は「高血圧の症状にお困りの患者の方へ」をご覧ください。   糖尿病の血圧値について 日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2014」では、糖尿病患者さんの降圧目標を、130/80mmHg未満としています。ただし、高齢者では厳しい血圧コントロールは、ふらつきや起立性低血圧などの原因となる可能性があるため、やや高めに設定されています。高齢者では、それぞれの患者さんの病気の状態に合わせて慎重に血圧コントロールをしていきます。詳しくは「高血圧治療ガイドライン2014」に記載していますので、ご興味のある方はご覧ください。   糖尿病と高血圧予防 糖尿病と高血圧予防に有効な対策は「食生活の改善」と「運動」です。順番にご説明していきますね。 【糖尿病と高血圧予防】食生活の改善 食事は、自分の適正エネルギー量を知り、その範囲で栄養バランスを考えてさまざまな食品をまんべんなくとることが大切です。食事を抜いたり、まとめ食いしたりはせず、朝食、昼食、夕食の3回ゆっくりよく噛んで、腹八分目で食べるよう心掛けてください。バランスのとれた栄養を1日の必要量のカロリーでとることで、すい臓の負担は軽くなり、すい臓の能力は回復されます。   糖尿病と高血圧予防|食事のポイント 糖尿病と高血圧を予防するためには「食べ方」も大切です。食事する際は以下のポイントに注意してください。 <糖尿病と高血圧予防|食事のポイント1>野菜類から食べる 野菜類から先に食べることで食後の血糖値の上昇が緩やかになります。また、野菜や豆類などで少しお腹をふくらませておくと、肉類やご飯の量を減らすこともできます。ですので、食事をする際は、野菜類から食べるようにしてください。 <糖尿病と高血圧予防|食事のポイント2>ゆっくり食べる 早食いは食べすぎの原因となるほか、急激な血糖値の上昇を招きます。食事をする際はひと口入れたら箸を置くクセをつけ、ゆっくり食べることを心掛けてください。 <糖尿病と高血圧予防|食事のポイント3>規則正しく3食を食べる 1日に2食や、間隔の空き過ぎた食事の取り方はよくありません。食事を抜いたり、まとめ食いしたりはせず、規則正しく「3食」を食べることを心掛けてください。 <糖尿病と高血圧予防|食事のポイント4>腹八分目 慢性的な食べすぎは、余分なブドウ糖をつくり、糖尿病を発症させる最大の原因となります。いつもお腹いっぱいに食べないと満足できない人は、注意が必要です。とくに脂肪分の多い肉類の食べすぎは、カロリーの取りすぎにつながりやすいので、量を控えてください。   【糖尿病と高血圧予防】運動 運動をすることで、ブドウ糖や脂肪酸の利用が促進され、インスリンに頼らずに糖分が細胞や筋肉の中に吸収されるようになり、血糖値の低下が期待できます。また、長期的には、インスリン抵抗性を改善させ、血中のブドウ糖の量を良好にコントロールできるようにすることが期待されます。なお、おすすめの運動は「有酸素運動」と「レジスタンス運動」です。それぞれの運動については下記をご覧ください。 <糖尿病と高血圧予防|おすすめの運動1>有酸素運動 有酸素運動とは、筋肉を収縮させる際のエネルギーに、酸素を使う運動のことです。ジョギングや水泳、エアロビクス、サイクリングといった少量から中程度の負荷をかけて行う運動が代表的です。有酸素運動は時間をかけて体を動かすため「心肺機能の向上」や「体脂肪の減少」などの効果が期待できます。 <糖尿病と高血圧予防|おすすめの運動2>レジスタンス運動 レジスタンス運動とは、筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動です。スクワットや腕立て伏せ・ダンベル体操など、標的とする筋肉に抵抗をかける動作を繰り返し行う運動をレジスタンス運動と言います(レジスタンス(Resistance)は和訳で「抵抗」を意味します)。レジスタンス運動は、筋肉量増加・筋力向上・筋持久力向上を促す筋力トレーニングとして高齢者からアスリートまで広く行われています。   糖尿病と高血圧予防|運動の頻度について 運動の頻度は「できれば毎日」少なくとも週に3~5回行うのが良いといわれています。しかし、普段から運動に親しんでいない方(または高齢の方)などでは、急激な運動はかえって体の負担となり、思いがけない事故を引き起こしてしまうこともあります。ですので、無理のない範囲で行なってください。運動は定期的に長く続けられることが秘訣です。自然の中で風景を堪能しながらの「ウォーキング」や楽しく続けられる「スポーツ」など、自分にあった運動の方法を探してみてくださいね。 当日の順番予約はこちらから

2022.10.05